メッセージ（大谷孝志師）

ヨセフへの受胎告知
向島キリスト教会　聖日礼拝説教　2021年12月12日
聖書　マタイ1:18-25「ヨセフへの受胎告知｣

　今朝は、マタイの福音書のイエスの父ヨセフへの受胎告知を通して、主イエス降誕の理由と意味を学びます。マタイは「アブラハムの子、ダビデの子、イエス・キリストの系図」を記した後、マリアへの受胎告知を知った後のヨハネにつて記します。そこから、私達はヨセフへの受胎告知以前の彼の心の動きを知ることが出来ます。先週学びましたが、ヨセフと婚約していたマリアが、夫婦として一緒に生活する前に、聖霊によって身籠もると御使いに告げられました。ヨセフは恐らくマリアからその事実を知らされたのでしょう。18節の最後は「分かった」とあるだけですが、これは三人称単数形で、ヨセフが、マリアの妊娠を聖霊に依るものと知ったことを示しているからです。

　「夫のヨセフは正しい人で、マリアをさらし者にしたくなかったので、ひそかに離縁しようと思った」とあります。この「思った」単に思ったのではありません、「決心した」という彼の決意を表す強い言葉です。正式に離縁すれば彼女の不倫が公になり、姦淫罪で死刑になり、当然、彼女はさらし者になります。それにしても何故、彼は離縁を決意したのでしょう。彼には、律法を守り、御前に正しい人として生きた自負がありました。自分は妻の聖霊による妊娠を信じたとしても、世の人々は信じないだけでなく、父の家で過ごしていた彼女への誘惑に負け妊娠させたと思われるかもしれないと思ったのです。彼女と自分の傷を少なくするにはこの方法しかないと思ったのです。そうするなら、彼女の命と自分の名誉が守られると考えたのだと思います。

　さて、「彼がこの事を思い巡らせていたところ」とあります、私は、彼が妻マリアの思いを確認しようとしていないと気付きました。妻が負っている重荷を夫であるのに共に担おうとしていないのです。むしろ、彼女を切り捨てることで、自分の正しさを守ろうとしているとしか思えません、彼の弱さ、男の身勝手さすら感じさせられました。もしここに、「彼が正しい人で、彼女の思いを知り、その重荷を自分も引き受け、共に生きることを決心した」とあるなら、やはり主の父に選ばれた人は違うと思うのではないかと思います。

　そしてもう一つ気付いた事があります。聖書に、マリアがヨセフに自分への受胎告知を、二人にとって重要な事として伝えたとは書いていないことです。彼女は、御使いが自分に現れて告げたように、彼にも告げてくれるだろうと思ったのかも知れません。彼女にしてみれば、有り得ない事、世間的に見てあってはいけない事です。どう話して良いか分からずに、彼に真実を素直に告られなかったのでしょう。だから彼は苦しんだと言えます。人は結局は自分が考え、信じる範囲で判断し、行動するしかないない存在と言えます。

　ヨセフは、妻マリアから聖霊に依る妊娠を告げられました。にも拘わらず、妻を密かに離縁しようとします。現実に起きた霊的事実を聞いても、その事より、自分が判断し、他人が判断するであろう事を優先したのです。私達も聖書を読み、祈りの中で御言葉が響き、御心を示された時、それを神が自分の人生に関わってきた事として受け止められなったことはないでしょうか。　そこに誰もが持つ人としての限界を私は見ました。それだけでなく、彼はマリアに告げられた御言葉だったから、彼女から聞いても真実と受け取れなかったのだと思います。ですから、自分や他人が想像することを基準に判断するしかなく、自分が傷付かない方を彼は選ぼうとしたのです。彼女が密かにであっても離縁されたなら、社会的だけでなく、彼女の心に深い傷を負うことが彼の考えの中に入らなかったのです。自分の世界の中だけで可能性を考えると、自分にとって良い事、大切な事が全てになって、他人にとって何が良い事なのかを考える余地が無くなる弱さを彼も持ってしまったのです。

　しかし神は、そのヨハネを全ての人を救う為に世に遣わす御子の父として選んでいました。ヨセフは、自分は正しい人だと思っていました。しかし、知らされた事が御心によると信じられず、何故、自分が神の独り子を生むマリアの夫となったのかを悟れなかったのです。人は御心が判らないと混迷し、不安になり、神が備えている将来が見えなくなります。神は御使いを遣わして人に関わり、真実を教え、正しい道、将来歩むべき道を教えます。御使いが彼の夢に現れ「恐れずにマリアを妻として迎えよ」と命じ、「その胎に宿っている子は聖霊に依る」と教えたからです。私達も何が良いことで、神に喜ばれることかが分からず、迷うことがあります。いくら聖書を読み、祈り求めても御言葉響いてこない経験もします。しかし時があるのです。私も悩み苦しみ、戸惑っていた時に、突然御言葉が響き、進むべき道を示された事があります。神は真実な方です。神はヨセフに直接御使いを遣わし御心を知らせました。彼はマリアを妻として迎えました。不安や恐れを抱いた彼の状況は何も変わっていないません。彼女が姦淫の罪を犯していないことが誰の目にも明らかな状況になったのではありません。この神の独り子の妊娠という霊的事実は、マリアとヨセフに告げられただけなのです。考えてみれば、彼は御使いに告げられる前でも。彼女に起きた事を信じ抜けば良かったのです。聖書は、ヨセフの葛藤、逡巡を通して、人が誰でも持つ罪を明らかにし、罪人でありながら、神と共に生きるという新しい道を全ての人に示したのです。

　マタイはイザヤ7:14の「見よ、処女が身ごもっている。そして男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ」を引用、新しい時が始まったと教えます。彼は彼女の胎内に御子イエスが宿っている事実を知り「神が私たちとともにおられる」新しい時の中に妻も自分もいると知ったのです。自分達が神が共にいると知った時、妻と共にその新しい時と世界に生きる者となったのです。

　主イエスを信じるなら、あなたもあなたの家族も救われる、と告げても、イエスを信じなくても平気と言う人が多いのは事実です。しかし聖書は、主イエスが共にいると信じる時、人は本当の意味で、相手の状況をそのまま受け入れられる、相手を自分の重荷として引き受けられると教えます。インマヌエルの事実は人の価値観、世界観を大きく変え、生き方を変えるからです。自分の思い込み、不安や憎しみからも自由になり、相手と共に、安心して喜んで生きられるのです。主が私達と主にいる為にお生まれになり、十字架上で死に、復活して、今、私達と共にいます。主の御降誕を感謝しましょう。